名刺やカードをご注文後、納品された製品の仕上がりを確認した際に、「デザインが中央からわずかにズレている」と感じられる場合があるかもしれません。あるいは、ズレていたために再印刷を依頼したところ、印刷会社から「許容範囲内です」と断られ、再印刷に応じてもらえないという残念な結果になったご経験があるかもしれません。
これは「断裁ズレ」と呼ばれる現象で、紙の特性や、印刷・断裁工程における物理的な限界により、どうしても発生しうるものです。弊社では、このズレを最小限に抑えるよう細心の注意を払っておりますが、なぜズレが起こるのか、その理由と弊社の品質基準についてご説明いたします。

名刺を注文した際に、仕上がりのズレが生じたケース

1. なぜ「断裁ズレ」は発生するのか?

名刺やカードの製造工程では、コンマ単位(0.数ミリ)の非常に精密な作業が求められます。しかし、いくつかの要因が組み合わさることで、微細なズレが積み重なってしまうことがあります。

紙の「伸縮」という特性

紙を印刷機に通すことでの伸縮のイメージ図

紙の主原料であるパルプ(繊維)は、水分を吸収・放出しやすい特性を持っています。そのため、紙は空気中の湿度によって常に伸縮を繰り返しています。
特にオンデマンド印刷機は、トナーを定着させるために高い熱を加えます。この熱によって紙に含まれる水分が蒸発し、紙がわずかに収縮します。そして、紙の繊維の向き(紙目:縦目・横目)によっても伸縮率は異なり、季節や湿度によっても変化するため、印刷前後で紙の大きさが最大1mm程度変わってしまうこともあります。(紙に水滴を垂らすと、その部分が膨張するのと同じ原理です)

印刷・搬送時の物理的な限界

印刷機に紙を通す際に紙が若干斜め(斜行のズレ)に搬送されるイメージ図

印刷機内部で紙を搬送する際や、表面と裏面を印刷する際にも、機械の精度には限界があります。

例えば、表面で右に0.5mmズレ、裏面の印刷でも右に0.5mmズレた場合、表裏のデザインの位置関係は合計で1mmのズレとして現れることになります。

断裁時のズレ

印刷後に、仕上がりサイズにカットする「断裁」の工程でもズレは発生し得ます。これらの要因が複合的に重なることで、仕上がりにわずかなズレが生じてしまいます。

断裁時の搬送精度によるズレ

2. 高品質・低価格を実現する「面付け」と「断裁」

弊社の名刺印刷が低価格でご提供できる理由の一つに、「面付け(めんつけ)」という作業があります。
これは、ご注文いただいた名刺データを1枚ずつ個別に印刷するのではなく、オンデマンド印刷ではA3ノビサイズ(340×487mm)、オフセット印刷では菊半(きくはん)サイズ(469×636mm)といった大きな業務用サイズの紙に、複数枚分を並べて(面付けして)一度に印刷する手法です。(ご家庭のプリンタで市販のA4ラベル用紙に印刷する際、1枚のシートに複数のデータを配置するのと同じ原理です)

名刺印刷における面付けのイメージ

印刷後、この大きな紙を「断裁機」という専用の機械で、まず帯状に切り分け、次に名刺サイズへ一度にカットしていきます。
これらの方法により、生産性が劇的に向上し、低価格での納品が可能となります。

仮に、名刺サイズの小さな紙に1枚ずつ印刷し、ズレの状態を確認しながら手作業でカットすれば、精度を上げることは可能かもしれません。しかし、それでは膨大な作業時間がかかり、製造コストが現在の数倍に跳ね上がってしまいます。

3. 弊社の品質基準(断裁ズレの許容範囲)

上記のような様々な要因(紙の伸縮、印刷位置、断裁)が重なることで、断裁ズレの発生は避けられません。

一般的な印刷会社では、このズレの合計が最大3mm程度になる可能性を想定し、これを許容範囲としています。デザインデータ作成時に「塗り足し」を3mm設けるのは、このズレ(断裁誤差)によって紙の端(白地)が見えてしまわないようにするためです。

弊社では、これらの要因(紙の伸縮、印刷機の傾き、断裁機の癖など)をデータ化し、季節や用紙ごとに微調整を行うことで、ズレを最小限に抑える努力を日々重ねております。
その上で、お客様にご満足いただける品質を目指し、一般的な基準よりも厳しい社内基準を設定。断裁ズレを原則として最大2mmまでを許容範囲とし、高い品質管理に努めています。
すべての製品を完全に均一に仕上げることは物理的に困難ですが、精密な調整作業を維持し、断裁ズレの軽減に最大限取り組んでおります

4. 断裁ズレが目立ちにくいデータ作成のコツ

断裁ズレは、デザインの作り方によって目立ちにくくすることができます。ズレが目立たないようにするために、データ作成時に以下の点をご考慮いただくことをお勧めします。

1. 細い枠線(フチ)のデザインを避ける

名刺やショップカードなどの周囲を囲むような枠線(フレームデザイン)は、わずかなズレでも非常に目立ちやすくなります。できるだけ枠線を用いたデザインは避けるほうが無難です。
どうしても枠線を入れたい場合は、弊社の入稿テンプレートにある「安全エリア(青い線)」ギリギリに配置するのではなく、仕上がりサイズから4mm以上内側に配置していただくと、ズレが生じた場合でも目立ちにくい仕上がりとなります。

2. 文字や重要な要素は「内側」に配置する

データ作成時には、弊社の入稿テンプレートをご利用いただき、切れてはいけないロゴや文字は、仕上がり位置から最低でも2mm以上内側(入稿テンプレートの「安全エリア(青い線)」)に配置してください。
この範囲内は断裁の影響を受けない安全な領域となります。切れては困る重要な要素は、必ずこの範囲内に収めてください。