印刷物において、デザインした色や輪郭が意図した通りに再現されているかは、仕上がりの美しさを決める非常に重要な要素です。特にオンデマンド印刷のような多色刷りの場合、色がわずかにズレて輪郭がぼやけたり、不要なフチ色が見えたりすることがあります。これは「版ズレ(色ズレ・目見ズレ)」と呼ばれる現象です。

この現象を理解せずにデータを作成すると、細い文字が読みにくくなったり、デザインの意図が伝わらなくなったりする原因となります。

適切なデータの作成方法(特に「黒」の扱い)を身につけ、高品質な印刷データを準備するためのポイントを解説します。

1. 版ズレ(色ズレ・目見ズレ)とは

版ズレとは、オンデマンド印刷のように CMYK(シアン・マゼンタ・イエロー・ブラック) の各色のトナーを重ねて色を再現する方式において、各色のトナーを重ねる位置がわずかにズレてしまう現象を指します。

版ズレ(色ズレ・目見ズレ)が発生したイメージ図

機械で精密に位置合わせ(各版の位置合わせ)を行いますが、以下のような要因により、ごくわずかなズレが発生する可能性があります。

このズレにより、色がにじんだように見えたり、色と色の境界に隙間(白地)が見えたり、細い文字がぼやけて読みにくくなったりします。

2.【要注意】意図しない「4色掛け合わせの黒」

版ズレの影響が最も顕著に現れるのが、「黒い文字」の扱いです。特に、以下のようなケースで意図せず「4色掛け合わせの黒」が作られてしまうことがあり、注意が必要です。

また、WordやPowerPoint、Webサイトなど、PCの画面表示用(RGBモード)で作成されたデータをコピーし、IllustratorやInDesignなどの印刷用(CMYKモード)データにペーストすると、色の値が自動的に変換されます。
このとき、RGBで作成したときの黒(R:0, G:0, B:0)は、CMYKの黒(K:100%)ではなく、C, M, Y, K すべてのトナーを使って表現する「4色掛け合わせの黒(リッチブラック)」(例:C:92.9%, M:87.9%, Y:89%, K:80% など)に変換されてしまいます。

意図しない4色掛け合わせの黒

この「4色掛け合わせの黒」のまま細い文字や線を印刷すると、CMYKの4色がわずかにズレただけで、輪郭がにじんで非常に読みにくくなります。また、トナーの
データに取り込んだ黒いオブジェクトは、必ず色設定を確認し、文字や細い線であれば K100%(他のCMYは0%)に手動で修正してください。

細い文字や、細い線の注意

3.【状況別】推奨されるデータ処理

デザインの状況によって、色ズレの影響と対策は異なります。

状況 起こりやすい問題 推奨される対策
背景色の上にK100%の文字・線 色ズレでフチに白い隙間ができる。 オーバープリント設定を適用する。
※弊社では、印刷時にオーバープリントを無効にして印刷を行います。
CMYK掛け合わせの細い文字・線
(意図しない4色黒を含む)
各色がズレて、輪郭がぼやけ、読みにくくなる。 K100%(スミ1色)で作成する。または、なるべく使用する色数を減らす。
白抜きの細い文字・線 背景がCMYK掛け合わせの場合、ズレによって特定の色が文字にかぶり、線が消えたり、読みにくくなったりする。 ある程度の太さを持たせる。小さな白抜き文字は避ける。
広い面積の黒ベタ K100%だと色が浅く見える。 リッチブラック(C20% M20% Y20% K100%)を使用する。

4. よくある質問と注意点

Q1. 細い文字や線に4色掛け合わせの黒(リッチブラック)を使ってはいけないのですか?

A1. 原則、避けてください。

細い文字や線にCMYKの掛け合わせ(リッチブラック)を使用すると、オンデマンド印刷機のごくわずかな色ズレで輪郭がにじみ、読みにくくなる場合がございます。細い文字や線は単色の100%で作成するのが原則となります。

Q2. 版ズレが起こりそうなデータになっているかデータチェックしていただけますか?

A2. 恐れ入りますが、原則としてデータチェックの対象外となります。

データチェックの作業範囲では、オブジェクト一つひとつの色設定(K100%になっているか、意図しない4色掛け合わせになっていないか等)まで詳細に確認することは困難です。大変恐れ入りますが、お客様にてデータ作成時に色設定をご確認の上、ご入稿をお願いいたします。
なお、Office製品(Word, PowerPointなど)で作成され、PDF形式で書き出されたデータがRGBモードのままだった場合、弊社より再入稿をお願いするご連絡を差し上げます。 お客様にてCMYKへの変換が難しい場合は、弊社にてRGBからCMYKへ変換して印刷を続行いたしますが、その際に本ページで解説したような意図しない4色掛け合わせ黒が発生し、色ズレが目立つ可能性があることを、あらかじめご了承ください。
どうしても綺麗に仕上げたい、データ作成に不安がある場合は、弊社でデータ作成を代行する『名刺データ再現印刷サービス』などもご検討ください。