名刺の背景やロゴなどで使用する「黒」は、デザインの印象を大きく左右する重要な要素です。一般的なK100%(スミベタ)の黒は、紙の上に印刷すると、光の反射などにより少し色が薄く、チャコールグレーのように見えてしまうことがあります。

一般的なK100%(スミベタ)の黒とリッチブラック

より深みのある、締まった「真っ黒」を表現したい。そんな時に使うのがリッチブラックです。
リッチブラックを正しく使うことで、高級感や重厚感を演出し、デザイン全体を引き締めることができます。ここでは、美しい黒を再現するためのリッチブラックの設定方法と、データ作成時の注意点を解説します。

1.リッチブラックとは

リッチブラックとは、黒(K)100%のインキ(トナー)に、シアン(C)・マゼンタ(M)・イエロー(Y)の色を混ぜて作る、より深みのある黒のことです。4色を重ねることで、K100%単色の黒よりも格段に濃く、リッチな黒色を表現できます。

簡単に言うと、K100%は「黒1色だけの黒」リッチブラックは「他の3色を足して深みを増した黒」です。

リッチブラックの配分と設定

2.オンデマンド印刷の推奨リッチブラック設定

印刷会社や印刷方式によって最適な設定値は異なります。当社のオンデマンド印刷では、以下の数値を推奨しています。

推奨値:C20% M20% Y20% K100%

なぜこの数値が推奨なの?

当社の推奨値が、一般的なオフセット印刷で推奨される数値(例:C60 M40 Y40 K100)と異なるのには、明確な理由があります。

【参考】なぜ印刷会社ごとに推奨値が違うの?

印刷会社が使用する機械(オフセットかオンデマンドか)、紙、インキ・トナーの特性によって、色の再現性が微妙に異なるため、それぞれの環境で最も美しい結果を出せる「最適値」を推奨しています。
一般的な印刷会社の総インキ量(4色の合計)は、230%〜300%内で収まれば、色ムラや乾燥不良リスクを避けやすい範囲とされています。また、デザインに応じてCMYの比率を変え、クールな黒やウォームな黒を表現できる自由度もあります。

3.【最重要】リッチブラック使用時のルール

「濃い黒が良いならCMYも100%にすれば良い」と考えるのは大変危険です。美しい仕上がりのために、以下のルールを必ずお守りください。

4.【用途別】ブラックの使い分け一覧

黒は、その用途によって最適な設定値が異なります。

印刷用途 推奨設定 理由と補足
広い面積のベタ塗り・背景 リッチブラック
(C20 M20 Y20 K100)
深みと重厚感のある、締まった黒を表現できます。(※当社のオンデマンド印刷推奨値)
文字・細い線・小さな図形 K100% (スミベタ) 4色を重ねるリッチブラックは、わずかな版ズレで輪郭が滲むことがあります。K100%ならシャープで読みやすい仕上がりになります。
クールでシャープな印象の黒 クールブラック
(例:C30 M10 Y10 K100)
青み(C)の比率を上げることで、クールで知的な印象の黒になります。
温かく柔らかい印象の黒 ウォームブラック
(例:C10 M30 Y20 K100)
赤み(M)や黄み(Y)を足すことで、暖かく、落ち着いた印象の黒になります。

5.リッチブラックの設定方法

データ作成時に、リッチブラックを正しく設定する方法です。代表的なソフトウェアでの手順をご紹介します。

Adobe Illustrator の場合

  1. メニューバーから[ウィンドウ]>[カラー]を選択し、カラーパネルを表示。
  2. メニューバーから[ウィンドウ] >[ドキュメント情報]を選択。
  3. 各スライダーを推奨値(例:C20, M20, Y20, K100)に設定。
  4. 作成した色を[スウォッチ]パネルにドラッグ&ドロップして登録すると、後から簡単に同じ色を適用できて便利です。
[ウィンドウ] >[ドキュメント情報]を選択。 ドキュメント情報パネル

6. よくある質問と注意点

Q1. 細い文字やQRコードにリッチブラックを使っても良いですか?

A1. いいえ、絶対に使用しないでください。

細い線や文字にリッチブラックを使用すると、前述の「版ズレ」によって輪郭が滲んだり、二重に見えたりして、可読性が著しく低下します。QRコードも同様に、読み取り不良の原因となります。文字や線、QRコードには必ずK100%を使用してください。

Q2. RGBで作った黒(R0 G0 B0)は、印刷するとどうなりますか?

A2. 意図しない色に変換され、印刷トラブルの原因となります。

RGBの黒をCMYKに変換すると、総インキ量が非常に高いリッチブラック(例:C93 M88 Y89 K80)になることが多く、トナー剥がれや文字潰れに繋がります。データは必ず初めからCMYKカラーモードで作成してください。

Q3. K100%の文字の下にリッチブラックの背景を敷いてもよいですか?

A3. 仕上がりの見え方にはご注意ください。

照明の当たり方や見る角度によっては、K100%の黒文字とリッチブラックの背景の差がほとんど感じられず、文字が背景に沈んでしまうように見えることがあります。見え方の違いはごくわずかで、個人差の範囲にとどまる場合が多いため、あまりおすすめしていません。

また印刷会社によっては、K100%オブジェクトに「オーバープリント(ノセ)」設定が加わっている場合、下のリッチブラックと混ざり合い、文字が背景に溶け込むことがあります。ただし、弊社ではご入稿データにオーバープリント設定が含まれていても、自動的にオーバープリントを解除して印刷いたしますので、その点は心配ございません。